「今おいくつですか?」
大した実績もない自分自身への引け目か。未成熟な内面への気後れからか。近頃は僕も年齢を聞かれると答えるのに少し躊躇してしまう。誰しも生まれながらに若さという武器を持っている。しかし気がつくとその武器はもう僕の手から失われたようだ。まだ残る小さな挑戦心も年々増える自分への言い訳に掻き消される。年齢を重ね衰えたのは体より心の方かもしれない。人はこうやって歳をとるのかな。
そんなことを考えた昨年の暮れ。アルビに決して若いとは言えない選手が加入した。千葉和彦選手だ。加入の報が流れた際には客寄せパンダという辛辣な声も聞こえた。たしかに千葉選手は2年間リーグ戦に出場しておらず疑問符のつく補強だ。しかし加入後の千葉選手の振る舞いは流石だった。キャンプ中もチームが楽しそうに取り組んでいる様子が見て取れる。その雰囲気に千葉選手の明るさが寄与しているのは明らかだった。しかし僕が驚いたのはその後だ。彼はトレーニングマッチに主力組で出場する。そして幾度も早い縦パスを通してみせた。それは選手としての健在ぶりを示すのに十分な出来だった。
迎えた開幕戦。千葉選手は堂々のスタメンを飾る。試合が始まれば落ち着き払い流麗なパスワークの起点となる。そのパスには「どうだ俺はまだまだやれるだろ」というメッセージが込められているかのようだ。さらに先制点まで奪う活躍。悠然とボールを捌くその姿はチームに新しいストロングポイントが生まれたことを印象づけた。彼は自らの力で獲得に懐疑的だった声をかき消してみせたのだ。
そうしてアルビは開幕三連勝を遂げた。22年ぶりの快挙だ。この3試合中に僕はSNSで千葉選手がこう評されているのを目にした「以前新潟にいた時はこんなに上手い選手じゃなかった」これを読んで何とも誇らしい気持ちになった。誰にでも加齢による身体能力の低下は訪れる。それでも彼はただ衰えて戻ってきたわけではない。新潟を離れて得た技術と経験をいまアルビに還元しているのだ。ピッチ外の言動に注目が集まりがちだが彼が真価を発揮するのはピッチ内だ。新加入にも関わらずもはやアルベルトサッカーの申し子と呼んでも過言ではないだろう。
ベテラン選手が輝きを放ち下馬評を覆す。同じく年を重ねた身としてそれは何とも痛快だ。もしかすると本当にビッグスワンに呼ばれたのかもしれない。これからもその一挙手一投足に注目だ。Vamos!千葉ちゃん!