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オレラグ

フォルクスパルクシュタディオンの熱狂

2019年4月11日

2019年4月8日、ドイツのサッカー2部リーグ、ハンブルガーSVと1.FCマクデブルクの試合を現地で観戦しました。直後の素直な気持ちをオレラグに書き留めておきます。

昨シーズン、ハンブルガーSVの降格が決定する試合をテレビで観ていた。
他会場の結果により降格が決まってしまう絶対に勝たなければいけない緊張感のある試合だった。
しかし、他会場の結果を知ったのか試合の終了間際に一部のサポーターが暴徒化。ピッチに発煙筒が投げ込まれた。1分、1秒でも1部にいる時間を長くしようとしたのだろう。試合が一時的に中断する事態となった。
再開後、なんとか勝利を収めたハンブルガーSVだったが、ブンデスリーガが発足してから54年もの間、1部リーグに在籍し続けたチームの降格が決定した。

発煙筒の煙が立ち込めるスタジアムで下を向く選手たちを、日本からテレビ越しに眺めていた。
暴徒化したサポーターが退場させられ、しばらくポッカリと空いたゴール裏の席が映されていた。驚いたのは次の場面だった。拍手と声援が全体を包み込んでいく。
他の大多数の客席から聞こえてきたのはこのチームを励ます声。
彼らの声援は、紛れもなく目の前で降格が決定したチームへ向けたものだった。
そして、その声援にしっかりと答えるような眼差しで、まっすぐスタンドを見つめる酒井高徳が映された。

チームが勝てないとすぐさま監督が変わり、チームの土台が作れないという状況。
1部リーグに長い間在籍し続けていた自信とそれが崩れた瞬間。
スタジアムを包む温かい拍手。
そんな姿に、歴史の厚みは違えど、アルビレックスと重なる部分を感じていた。
試合開始から降格決定までの一部始終を、固唾を飲んで見守っていたのを覚えている。

 
 
 
 
 
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日本で買ってきた本をハンブルクに向かう電車の中で読みます。 #酒井高徳 #ダブル #gotokusakai

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ハンブルクに向かう電車の中で、先日発売された酒井高徳著「W」を読んだ。サッカーを始めた新潟の地、プロとしてのキャリアをスタートしたアルビレックス新潟、シュツットガルトでの活躍。そして、ハンブルガーSVへの移籍。彼の過去と彼が胸に秘めている考え方を読んで、スタジアムが近づくにつれて自然と胸が高まった。

ハンブルクのアイデルシュテット駅に到着。駅を降りてしばらく歩くと、スタジアムが見えてくる。フォルクスパルクシュタディオンだ。

試合前のワクワクする瞬間。このスタジアムが見える瞬間に胸が高鳴るのは世界共通だった。
2部リーグに所属し平日20時半のキックオフの試合にもかかわらず、スタジアムを埋め尽くす約5万人の観衆。
前の席のおじさんは、ひたすらにビールを飲んでいる。ドイツ人のビールを飲む量に驚いたが、よく考えたら新潟でもよく見る光景だった。なんだか親近感が湧くなぁ。

ハンブルガーSVは1シーズンでの1部リーグ復帰が絶対目標にもかかわらず、チームの調子が上がらずにいた。昇格争いの重圧でスタジアムはピリピリとした緊張感に包まれていた。一方、アウェイサポーターはアウェイの地に乗り込んだ勢いそのままに、キックオフが近づくにつれ声が大きくなっていった。
この緊張感のあるピッチで、酒井高徳は堂々と闘っていた。他の選手への指示を送り続けた。審判にも会話をして時間と共に激しさを増す試合をコントロールしようとしていた。同い年の新潟人として闘う姿勢を誇りに思うし、信頼を得てチームの中心となりドイツ人のように振る舞う彼を本当に尊敬する。

僕は興奮で頭が真っ白になりそうになりながら、試合に釘付けになった。

ただ、ひとつショックだったことがある。勝ちたいという気迫が、Jリーグとは比べものにならないくらい強い。日本のスタジアムには熱狂が足りない。選手の勝ちにこだわる姿勢、サポーターの目の前のゲームを自分ごととして感情をむき出しにする姿をみて、愕然とした。文化の違いと言ってしまえばそれまでかもしれないが、勝ちに対する気持ちに圧倒的な差があると感じてしまった。

それと同時に、ビッグスワンだって負けてないじゃん!とも思う。いいプレーに反応して、選手へのコールと拍手が響く、スタジアム全体で鼓舞するスタイルは、このフォルクスパルクシュタディオンにも負けないくらい素晴らしい雰囲気のつくり方だと思う。このビックスワンのスタイルは、まだ発展していくだろうし変わってもいくだろうけど、大切にしていきたい。

その上で、サポーターのひとりとして、ビッグスワンをもっともっと熱狂するスタジアムにしたい。そして、それができるスタジアムだと確信した。

残念ながら、酒井高徳は後半は消極的なプレーが目立ち途中交代となってしまった。ハンブルガーSVは不調を引きずったまま、後半ロスタイムに逆転弾を許してしまい1−2の敗戦となった。
ハンブルガーSVサポーターの重々しい雰囲気と、マクデブルクサポーターの歓喜の声が入り混じりったスタジアムを後にした。

僕もこのスタジアムにいるハンブルガーSVのサポーターもマクデブルグサポーターも、一つのクラブを応援するひとりのサポーターであることに変わりはない。彼らに負けない情熱と温かさを持つ熱狂をビックスワンでつくっていきたいと思った。
次に訪れるときは、程遠いと感じた距離が縮まっているといいなぁ。

aoki
あおきゆうた
新潟市出身川崎市在住のアルビレックス新潟サポーター。深澤マサのドリブルに憧れサッカーを始めるもあえなく挫折。最近は、マンチェスターシティのドキュメンタリーにハマり、プレミアリーグにも興味が出てきました。