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【番外編】カチガラスが見た白鳥

2014年4月18日

 アルビレックス新潟のサポーターの皆様、初めまして。サガントスサポーターの助×御女郎といいます。Twitterで交流のあるアルビレックス新潟サポーターの方から、ブログを書いてみないかとお誘いを受け、一筆啓上させていただくことになりました。
 先日のアウェイ新潟戦のことなども交えつつ、いちサガントスサポーターから見たアルビレックス新潟や、新潟のことについても書いてみたいと思います。
 
 サガントスが本拠地を置く佐賀県鳥栖市と、アルビレックス新潟の本拠地である新潟市は、直線距離で920km離れています。空路なら福岡空港を経由して2時間、陸路なら新幹線を乗り継ぎ8時間もかかる距離です。
 日本海側に面しているというか細い共通項はあるとはいえ、緯度も経度も所属する気候帯も、人口も産業も殆ど共通項がないと思われる二つの地域。そこに住んでいる人間が、年数回、互いの意地とプライドを賭けて激しくぶつかり合う日があります。Jリーグ公式戦! ヤマザキナビスコカップ! そして天皇杯! 普段は殆ど接点がない二つの集団が、この日ばかりはおのれの全てを剥き出しにして、ぶつかり合うのです。
 ぶつかり合いという名の交流。交流という名の真剣勝負。その中で、サガントスサポーターが知らなかった新潟の姿が見えてきたり、逆にアルビレックス新潟サポーターの皆さんがサガントスや鳥栖市や佐賀県について知識を深めていただいたり、ということが起きています。元々縁もゆかりもない人々が、サッカーをきっかけにどんどん繋がっていく。本当にすばらしい!
 
 2013年は鳥栖から新潟にキムクナンが移籍したり、菊地直哉選手が鳥栖の危機を救うために移籍してくれたりと、選手の交流も増えてきました。2013年シーズン開始後のキムクナンの活躍は、サガントスサポーターとして寂しい反面、嬉しいニュースでもありました。
 同じJ2オリジナル10の同輩として、J1で長い間活躍し続ける先達として、リーグ戦を争うライバルとして、地方で頑張る同志として、色々な形でアルビレックス新潟のことを意識しているサガントスサポーターは大勢います。かくいう私もその一人です
 
 前置きが長くなってしまいましたが、本稿では、サガントスサポーターである私が、アウェイ戦で新潟市を訪れたときの経験なども織り交ぜながら、観戦時に感じたことや発見したことについて書いてみたいと思います。
 
 サガントスが2011年にJ1昇格を確定してからのアウェイ新潟戦は、2012年が10月、2013年も10月、2014年が3月に開催されました。意識してのことかは判りませんが、どの試合も大変に寒かった。私もサガントスがJ1に昇格してからは、毎年お邪魔させていただいています。
 サガントスサポーターが新潟にやってくる場合、地元サポーターは福岡空港から新潟空港行きの直行便を使い、私のような関東在住のサポーターは上越新幹線を使います。
 上越新幹線の改札口を降りて真っ直ぐ歩いていくと、駅の南北を繋ぐ連絡通路に出ます。ここを歩いていくと、あることに気付きます。連絡通路のスペースいっぱいに貼られたオレンジ色のポスターと、ポスター大の紙に一文字ずつ印刷された「アイシテルニイガタ」の文字。最初に見たときは、何のことだろうと思いましたが、これこそがアルビレックス新潟サポーターを奮い立たせる魔法の言葉なのだとすぐに思い至り、思わず武者震い。ううむ、それならば「アイウチジョウトウ」「アイカワショウハゼブラーマン」「アイラブユーラブバスクリン」などと別の言霊で上書きしてやれと試みるも、そんなことしても屁の突っ張りにもならないし、そもそも空しいだけなので、そそくさと南口に向かいます。アウェイの洗礼一発目を見事に頂いてしまいましたが、ああ敵地にきたんだと気分が盛り上がります。
 空港からのバスは新潟駅の南中央口付近に到着しますが、ここでサガントスサポーターは目の前にあるオレンジガーデンを目にします。そりゃもう否応なく目に入ってきます。ここで「立派なお店だ…グッズも多い…」とサガントスサポーターは衝撃を受けます。アウェイの洗礼二発目です。(サガントスにもThe Saganというスポーツバーやオフィシャルショップはあるのですが、いかんせんグッズ数が寂しい…近年は徐々に改善されつつありますが)
 気を取り直し、PLAKA2前のバス停からシャトルバスに乗りましょう。バス内のサポーター比率はだいたい1:9。時間帯によっては1:19。ただでさえ絶対数の少ないサガントスサポーター。かたや地方にありながら無類の観客動員力を誇るアルビレックス新潟サポーター。数で対抗しようなんて気持ちは端からありません。「サガントスサポーターは一騎当千の強者揃い…だったらこのバスのサポーター比率は1000:19だから圧倒的数的優位を作っているのだ…」などと念仏のように唱え、自分を奮い立たせます。アウェイの洗礼三発目です。
 やがてバスは試合会場である新潟県スポーツ公園に到着します。降車場から球場を左手に見つつ、県道下のトンネルをくぐり抜けると、目に飛び込んでくるのは大きなデンカビッグスワンスタジアムと鳥屋野潟に続いている池、そして色とりどりの屋台! 我らが本拠地ベストアメニティスタジアムも、サポーター一同、胸を張って世界に誇れるスタジアムだと自負していますが、規模の大きさではワールドカップ開催の場所である新潟県スポーツ公園に軍配があがります。多くのサガントスサポーターはここでぐっと息を吸い込み、「大きいのがなんだ…これまでだって体がちぃちゃくっても強い人は沢山いたんだ…舞の海関とか…秀平さん…僕達に力を貸してください…」と雰囲気に呑み込まれないようセルフコントロールします。青森県出身の舞の海関も、縁もゆかりもない佐賀の人からそんなお願いされても困ってしまいますよね。これがアウェイの洗礼四発目です。
 
 さて、色々がんばったお陰で気分も落ち着いてきました。試合開始までの時間をどうやって過ごしましょうか。
 私は毎回、ビッグスワンの休息室内のスポーツ展示室に行き、展示物を眺めて2002年のワールドカップに思いを飛ばします。日本中が異様な熱気に包まれた2002年。様々なドラマがありました。新潟を舞台にした試合で印象に残っているのは、決勝リーグのデンマークvsイングランド戦。ベッカム人気が一人歩きしていた印象はありますが、前半から圧倒的な攻撃を見せたイングランドのファンになった方も多いのではないでしょうか。日本のサッカー史の一部を切り取って見せてくれるこの展示。寛いでいる沢山のアルビレックス新潟サポーターさんの視線を受けながら展示場まで行くのには若干の勇気が必要ですが、これがないと新潟に来た気にはなりません。
 一通り見学を済ませたら、広場に戻りスタジアムグルメを堪能することにしましょう。新潟に来たらこいば食わんば!(これを食べなければ!) と決めているのは、新潟名物イタリアン。パスタなのか? 焼きそばなのか? いいやこれはイタリアンだ! 保温器から出して貰った大盛イタリアンを、冷え冷えのビールで流し込む! そうすることで、「遠くまでやってきたんだ」という気持ちと「俺は新潟を食った! この試合、負けるはずもなし!」という無理矢理な闘争心が心の中に芽生えてきます。アウェイを訪れるサポーターにとって、スタジアムグルメを堪能するというのは、「戦闘モード」に入るためのイニシエーションでもあるのです
 ちなみに今年は、イタリアンの他に真っ黒な唐揚げもいただきました。謎の黒いタレが香ばしくて大変美味しかったんですが、一人で食べるには量が多すぎたため、試合中は何も食べることが出来ませんでした。

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 その後ビジター入場列に並び、地元からやって来たサポーターさんたちとご挨拶。「朝の便、社長さん(サガンドリームスの竹原社長)も一緒に乗っとらしたらしかよ」「安田君は練習でよう走っとんしゃった。今日はやってくれるばい」「義希がよか車に乗っとらした」などと、内輪のネタで盛り上がります。
 やがて、入場開始のアナウンスが流れ、サガントスサポーターは我先にとスタジアムに乗り込みます。眺めの良い席を確保したら、ホットワインで体を温めながら試合開始を待ちます。アウェイ側の売店のおばちゃんは、ぬかりなく我々に色々なものを売りつけてくるので、油断がなりません。J1リーグ戦では毎回寒い思いをしているため、熱燗やホットワインが飛ぶように売れていました。私ももつ焼き食べたいなーと思いつつ、ワインを三杯おかわりしてしまいました。
 そうこうしているうちに、次第にお客さんが席を埋め始めました。うわー新潟さんもだいぶ人が入ってきた。どこからやってくるんだろう。あの人数でうちのスタジアム満員になるんじゃないか? 毎度毎度のことですが、新潟さんの観客動員数は素直に羨ましい。我々も、もっともっと集客アップに頑張らないといけないね、なんてことを話し合います。
 選手がアップを開始した辺りで徐々にエンジンが温まってきました。普段大人しいサガントスサポーターも、次第に言葉遣いが荒っぽくなってきます。今日の試合は絶対勝つ! 豊田も池田も調子が良いし、安田とミヌの左サイドも最高だし、丹羽さんのロングフィードは毎回冴えてるし、ゴールを守るのは守護神林! お、今日は宏太が先発か。うん、負ける要素が一つもないな! あ、アルビレックス新潟サポーターの皆さん、菊地君に拍手してくださってありがとうございます。借りパクしてごめんなさい。
 

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 さていよいよキックオフ! よーしボール支配はこっちが上…ウギャー! レオシルバ怖い! 亜土夢堅い! なんなのこの人たち! 前半戦は1-0で折り返し! 後半で絶対追いつく! やっちまえ! あ、陽平のシュートがポストに弾かれた! 試合終了! …川又君にハットトリック食らわなかったからいいや。
 がっくり肩を落としてスタジアムの外に出て振り返り仰ぎ見れば、そこには物言わぬビッグスワンが静かにこちらを見下ろしています。途端にむらむらと悔しさがこみ上げてきて、「くっそー! 来年も絶対やってくるからなー! 待ってろよー!」などと遠吠えしつつ、まぁ0-1で負けたんだから戦い方は悪くなかった、選手達もこの経験を糧にもっともっと強くなってくれるだろうなどと前向きに考えを切り替えつつ、シャトルバスの待機列に並んでいるときふと思いだし他試合の経過を携帯電話で確認して一喜一憂しつつ、アウェイゲームの一日は暮れていくのでした。
 とまあ、そんな感じで、二年連続で負けながらもそれなりに楽しんでいます。
 
 書いても書き足らないことばかりですが、きりがないのでこの辺でいったん筆を止めさせていただきます。
 その他、私個人が考える、アルビレックス新潟とサガントスの似ているところ、似ていないところについて挙げさせていただきます。
 
似ているところ
・チームを街に根付かせるために奮進努力してくれた人の存在。元新潟県サッカー協会会長の故澤村哲郎さんと、元佐賀県サッカー協会理事長の故坂田道孝先生。地方にスポーツ文化が根付いていく過程で、こういう方々の目に見えないお力添えがあったのだと思います。
・街全体でチームを応援しているけど、予算を節約するために手作り感満点。商店街も頑張ってサッカーを盛り上げています。(サガントス名物のアウェイ割とやけ酒割、導入してみません?)
・比較的高年齢のサポーターが目立つ。元気の良い若いサポーターと、お爺ちゃんお婆ちゃんサポーターが、仲良くサッカーを見ている。そして、さっきまでニコニコしていたお爺ちゃんお婆ちゃんが試合中お気に入りの選手が転ばされると、信じられないくらいドスのきいた野次を飛ばし始め、びっくりする。
・圏内に有名な「朝日山」がある。
 
似ていないところ
・ホームタウンの人口が段違い。新潟市は81万人。鳥栖市は7万人。佐賀県の人口(85万人)でようやく追いつきます。
・練習設備の充実度。アルビレックス新潟の練習施設アルビレッジは規模も大きく、山の天然芝ピッチがありますが、サガントスが普段使える練習場は2面。(でも、念願のクラブハウスは様々な方のご支援により、2013年5月にようやく竣工しました…クナンに使わせてあげたかったなぁ)
 
 少しだけ、個人的なことを書かせてください。
 私の祖母は新潟県南魚沼市の出身で、生前よく祖父と連れだって里帰りをしていました。私が新潟を訪れる機会はまったくなく、祖母が聞かせてくれる雪や毘沙門堂のお祭りの話で、子供なりの想像力を働かせ、新潟とはこういうところなんだろうな、というぼんやりしたイメージを持っていました。
 ここ数年は、サッカーや仕事の関係で、ほぼ毎年お邪魔するようになりました。実際の新潟は、小さい頃に思った通りだったり、想像したのとまったく違ったりと色々でしたが、自分のルーツの一部でもある地にやってきた喜びは、毎回感じています。
 
 サガントスサポーターは、「J1にいるのが奇跡なんじゃない。チームが存在し続けていることが奇跡なんだ」という考え方の人が多いです。これは、自分のチームを二回失った苦い経験からきています。何事も、良いときもあれば苦しいときもある。でも我々は、チームがどんな状況になったとしても、それぞれの立場からチームを支え続けていくでしょう。そして、アルビレックス新潟サポーターの方や、日本全国の各チームのサポーター達が、根っこの部分は同じ気持ちを共有していると思っています。
 この奇跡が続く限り、サッカーを通して泣き、笑い、時には煽ったり煽られたりしながら、日本全国の皆さんや、世界の皆さんと、楽しい時間を過ごせたらいいなぁ。サッカー文化がようやく根付き始めた佐賀県のことを思うにつけ、そう願わずにはいられません。
 
 10月26日のサガントス戦、是非皆さんでお越し下さい。サポーター一同、入念に準備の上、皆様にたっぷりサガントス流のおもてなしをさせていただきます。
 長文乱筆失礼しました。


助×御女郎
 1999年に関東に引っ越してきたため、関東近県のアウェイ戦を主に観戦して きたサガントスサポーター。自分のチームを精一杯応援しつつ、J2オリテン仲間の試合結果も気に掛けてます。