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オレラグ

問うてみて解いてみる【Review】第9節 栃木FC戦

2020年8月4日
Jリーグとか日本に限らず大体どこでも試合直前と試合直後のタイミングで両チームの監督というのは挨拶をします。
昔から親交のある監督さん同士なら楽しそうに談笑されていますし、反対にこれは海外でたまに目することですが、前日会見とかでお互いに少し相手を皮肉ったりして、実際試合当日も目を合わさずサッと握手するだけとか、なんだったら足早にロッカーに戻っちゃったりなんてこともあったりします。そういう監督さん同士のちょっとした関係が見られるからあの挨拶する画は個人的に結構好きです。
そしてうちの話。
前節ヴェルディ戦後のアルベルさんは、敵将の永井さんに映像で見る限り十数秒と結構長めにお話されていましたが、今節田坂さんとはひじタッチをしてすぐに別れていました。
前節のプレビューでも少し触れましたがヴェルディのようなサッカーには恐らくシンパシーを感じたからこそ、何かいろいろ伝えたかったのかなという気がしましたが、対照的に栃木のようなサッカーはやはりフィロソフィーや考え方が違うからなのかそれほど伝えたい事もないのかな、ということをそんな試合後の挨拶を見て感じました。
あ、あくまでも勝手に感じた完全なる推測ですのでご了承ください。
ただ、そんな考え方も戦い方も全く違う栃木に対して今季初の無得点に抑えられてしまったということは、それはつまりこのゲームは全体的に栃木のゲームだったということがそんなところからも窺えるのかなという気がしました。

スタメン

 
新潟の方は前節からの変更が4人。
秋山、島田が2試合ぶりでマンジー、ゴメスが3試合ぶりのスタメンに入り、將成と矢村がそれぞれ2節と3節以来のベンチ入りを果たします。
また前節負傷のファビオはやはりこの日は欠場ということになりました。
対する栃木も前節から4人変更。
高杉、溝渕、森、そして貴章が揃って2試合ぶりにスタメンに戻りました。また、貴章と2トップを組んだのはこれまで主に右SHを務めてきた明本でしたが、これは田坂さんも少し仰っていたように前線からの守備を考えてのことだったようです。この策も振り返ってみるとうまく奏功したと言えるのかもしれません。

前半

キックオフ早々から栃木は貴章に長いボールを当ててきて、そうかと思えば直後には新潟が後ろからビルドアップの形を作り、それに栃木がプレッシャーをかけてくるという戦前の予想通りの展開が開始間もないところから見られました。そしてその展開は基本的にこの試合90分を通じて変わらず推移しました。
飲水タイムまでで69%、前半終了時でも66%の支配率を保ちながら、これといった見せ場を作れないままゲームは進みます。栃木のプレスが速いとか、ボールが走らないようにどうやらピッチに水を撒いていないとか、確かにそれらに影響されてリズムが生まれなかったこともあるでしょう。
ただ、新潟のボランチが相手の2トップの背中でうまく受けるシーンがなかったわけではないですし、14分に解説の松原さんが「恐らく準備していたのでしょう」と仰っていた、一旦後ろへ戻して相手を引き出してから和輝が裏へのフィードを送ってマンジーが走りこむといった悪くない形もありました。それでも前半はかなり慎重にプレーしていたように感じます。
最初にいい形からゴール前に侵入できたと思えたのは20分。
右サイドでもらったマンジーのクロスにファーサイドへ秋山が入ってきたもののクリアされたシーンです。
このシーン自体は一旦クリアされたボールを拾ってからの2次攻撃でしたが、その前の1次攻撃は舞行龍から左に開いた秋山へフィードが入り、中央でもらったゴンサが今度は右の新井へフィードを送って右サイドを崩しに行くという流れで、それまであまりなかったサイドを替える大きな展開が見られたシーンでした。そんな横の揺さぶりがあったことで結果的に高い位置でセカンドを拾えて2次攻撃にも繋がったのではないでしょうか。
しかし、それ以外で目ぼしい攻撃の形というのはほとんど作れなかったのが事実で、栃木の方が決定機や惜しいチャンスを多く作れていました。
27分の溝渕のクロスに貴章が収めて明本へのラストパスをなんとかゴンサがクリアしたシーンが1つ。
30分、右から来たボールを瀬川がワンタッチでゴール前へ。明本が折り返したボールを貴章が収めて最後は森が放ったシュートを和輝がナイスセーブでしのいだシーンが1つ。
そして39分。ビルドアップの最中で舞行龍が出しどころに窮してしまったところを明本に奪われ、ドフリーで貴章にシュートを打たれながらも和輝がファインセーブでしのいだというシーンが1つ。
“和輝に救われた45分だったなぁ”なんて前半が終わった時に思っていましたが、また約1時間後に同じ感想をさらに強く感じさせられることになるのでした。
前半終了、0-0。
改めて振り返ると、終盤になってから先程挙げた20分のような大きな展開で揺さぶる形を狙うシーンは増えていて、44分のマンジーのシュートのように押し込んだ形もやや増やせていましたが、やはり貴章の決定機もあった分、劣勢だったという印象は拭えませんでした。

後半

栃木は前半の最後に負傷でピッチを後にした大崎に替えて榊を後半の頭から投入します。
新潟はそのままのメンバーで後半をスタートさせましたが、10分を経過したところで一気に3人を入れ替えます。
ゴメス、秋山、マンジー→大本、至恩、シルビを投入します。
大本が右SBに入ったことで新井が左へ移り、至恩とシルビはそのまま左SHと前線へ入りました。この交代によって少し試合の風向きは変わってきます。
シルビは投入されて早々からサイドの裏に抜ける動きでCKを取ったり、61分にもマウロからのパスは通りませんでしたが、同じように右サイドのスペースに抜ける動きを見せたりして、指示通りに奥行きを使うプレーを表現した選手たちに監督もサムアップを見せていました。
また大本も高い位置を取ることで、裏に抜けたりドリブルで運んだり自らの特長を活かして攻撃を活性化していましたし、至恩に関してはなかなか得意の仕掛けるプレーを見せることができませんでしたが、それでも外に開いたり内に入ったりしながらボールに絡んで、70分には中島のミドルまで至ったカットインクロスなどでチャンスメークするシーンもありました。
ビルドアップの位置も高くなり、全体として押し込んだ状態で新潟がゲームを進められるようになった中で、栃木は飲水タイム明けに明本を右、森を左、そして榊をFWというこれまでの基本型に替えて(戻して)アクセントを加えます。
77分には西谷のパスに森が抜け出した決定機や、83分にも貴章の競り勝ったボールを内側に入っていた明本が受けて、榊とのワンツーからシュートまで行ったシーンなどまさに狙いとしているような中央から崩す形を作りますが、いずれも和輝のナイスセーブでゴールとはなりません。
すると87分には榊→和田を投入し、再び明本をFWに戻して和田を右SHに置きます。これについて田坂さんは「守備のバランスと攻撃のパワー感」と攻守両面について仰っていましたが、最初に守備のバランスが出てきていましたし、その後また「守備を整えながら」とも仰っていたので、恐らく守備面での意図が大きかったのかなとは思います。
さて、押し込む形が作れるようになったものの、試合後にアルベルさんが「決定的なチャンスを多く作れたかと言うと必ずしもそうではなかった」と仰っていたように攻め切れないまま時間が過ぎてアディッショナルタイム。
大本のクロスを新太が収めてCKとなり、そのCKのクリアボールを拾って2次攻撃へ行こうとしたところでパスミス発生。
ルーズボールを森が拾うとそのまま独走。DFが追いかけるも振り切られ、最後尾に残っていた大本も股抜きで置き去りにされて和輝と1対1。森は和輝の右側を巻いて試合を決める一打を狙います。
しかし、残念そこは和輝。
ギリギリまで動かずに、シュートを打たれた瞬間素晴らしい反応で左手を出してストップしてみせました。
試合終了、0-0。
神様、仏様、和輝様。彼の手によって1ポイントを拾えたといっても過言ではないでしょう。獅子奮迅の大活躍でした。
やばい、至恩だけじゃなくて和輝も連れて行かれる……(だから誰に)

ビルドアップの差異

前半と後半のビルドアップの状況を、高さが違うので100%純粋に比較できるものではないですが、概ねこういう違いがあったんじゃないかなということで2つの図を作ってもらいました。
まず1つ目が前半11分14秒のシーン。
ここではボランチは下りていませんが、ボランチが下りた場合も同じように4バック+2ボランチ(縦関係かもしくはサイドに下りれば斜めの関係)+前へプレスをかけに行った相手SHと相手ボランチの間あたりに入ってボールを受けようとする両SHでビルドアップをしようとすることで、GKの和輝含め後ろに9人がいて、その9人と前にいる2トップの距離が遠くなっていました。
また、そんなビルドアップに対して栃木には4バック+2ボランチの6人を2トップ+両SH(+ボールサイドのSB)の4、5人で効率よくスライドしながら守られてもいました。
 
 
対して2枚目は後半23分、通算タイムで言うと68分35秒のシーンです。
よりオフェンシブなタイプの大本と至恩が高い位置で幅を取った上で、新井が相手2トップの脇あたり(縦に5分割した時の左中間、いわゆるハーフレーン)の絶妙な位置でビルドアップをサポートすることで、島田や中島がより相手に取って嫌なライン間にポジションを取りつつ顔を出しながらボールを動かしてテンポを作っていました。
また、後半のところでも書いたようにシルビや大本などを中心に奥行きを意識したプレーが増えたことで相手を下げることができたのも前提としてありました。
 
 

前半のプラン

前半と後半のビルドアップについてそれぞれ書いてみましたが、前半がうまくいかなかったのは事実ですし、今後もこういったことが起こり得る可能性はさらに高くなってくるかと思います。相手も賢いし強いチームばかりですから。
それに対してじゃあ前半は終盤に見られたようなサイドチェンジを入れて横の揺さぶりをもっと増やそうとか、SHの2人ともが基本型としてビルドアップのために中や後ろへ寄らずとも、ボールを動かす中で相手の2トップの位置関係がズレた時に寄ろうとか、まあいろいろ策はあるでしょけど、現場はもっと細かいことを考えてトライしているとは思います。
ここで一番もったいないというか好ましくないように思うのは、最初から後半のようにやればいいとか、プレスが来ているならもっと早く簡単に前へ送ればいいとか、ビルドアップやポゼッションに固執している、と見ている側が考えて勝手にストレスを溜めてしまうことなのかなと何となく思いました。
土曜日にレディースの試合を見に行った際、久しぶりにお会いできた方といろいろお話していた中で今年のアルベル監督のチームは「ホームとアウェーで戦い方を変えているような感じがする」ということをその方が仰っていて、確かに、と膝を打ちました。
それは“前半はまず0-0で後半勝負”的なイメージなのですが、そうであるとすればこの栃木戦の前半も、攻撃に関してイマイチな出来はある程度想定内であって許容されたものだったのかなという気がしました。
それよりも前半最優先にされていたことは、ポゼッションしながらも守備になった際“人数が薄い状態でカウンターを食らわない”ということだったのではないかなということです。
それは試合後の「前半からボールを支配して、相手を走らせ疲れさせる意図を持って入り、後半はスピードを上げて相手を疲れさせて、決定的チャンスを多く作りたかったですけど・・・」というアルベルさんの言葉からも読み取れるような気がします。
それ故の、これまでボランチを主戦場としてきた選手の4人同時起用であり、SBもゴメスがスタートで大本を途中からにしたのだろうと感じました。
 

目指しているところは高いところ

もちろん、攻撃の歯痒さは想定より深刻だったかもしれませんし、貴章の決定機なんかもあって、全部が想定内で許容できるものでは当然なかったはずです。
そして例えば、前半から後半のようにスピードを上げて人数を掛けて攻撃に出たり、ビルドアップがうまくいかないから簡単に前へ送ったりすることで、もしかするとそれでゴールを奪えて勝てたかもしれません。
ただ、それは今後勝ち続けるための積み上げになっているのかと言うと違うような気がしてしまいます。このクラブは栃木に勝つためだけにやっているのではなくJ1に上がるとか、そこで勝ち続けるためにやっているのだと思っています(例として挙げたような戦いをしたところで解説の松原さんも仰ってましたが似たような事をしたら栃木の方が上手なので勝つ確率が上がったとも思いませんが)。
こういう新しいことにチャレンジする中で連敗するパターンはよくありますし(特にポゼッションに取り組んだ時にありがち)、それで批判を浴びるのは結果も大事ですから当然なわけですけど、それを考えるとアルベルさんは、アウェー用のプランを持った上で最低限の1ポイントをここまで拾っているとも言えて、何とか積み上げていくことと負けないことの微妙なバランスを取りながらやれているのかなという気がしました。

最後に

う~ん……
なんかおもねっている感じというか、媚びている感じになってしまった気がしなくもないですが、まあ、これはこれでいいでしょう。
とにかくどういうプランだったか考えてみて、実際どんなプレーがあってどんな試合になったかをちょっと小難しく考えてみたことで腑に落ちることもあって、必要以上の余計なストレスは抱えずに、改めて作っていく過程が見られるのって興味深いなって思えた次第です。
“余計なイライラやストレスを抱えながらその分発散するのがどこかを応援しながらサッカー見ること”と言われたらそれも確かにそうなんですけど、自分の場合そんなに清々しい性格じゃないのかもなということも改めて気付かされた気がします。
なんかちょっと脱線してしまいましたが、さっ、次。大宮です。
ぶっ倒しましょ。