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オレラグ

間に合わせるために走る【Review】第36節 愛媛FC戦

2019年10月15日

各地で台風の被害が出たこの週末。
選手やスタッフは前々日に陸路での移動を強いられることになり、サポーターさんもいろいろな不確定要素が案じられる中で行かれた方、また残念ながら取りやめた方と様々にいらっしゃったようです。
キックオフの3時間くらい前に、自分の下にはそんな遠征の途中で泣く泣く断念せざるを得なくなった友人から無念の気持ちを聞いてほしいという連絡(暇電)がありました。こればっかりは仕方ないと慰めつつ他愛もない話をしたわけですが、そんな彼もきっとこの勝利を心から喜んでいることでしょう。いや、勝ち試合を見られなかった分、余計悔しさが増しているかも。
まあ何にせよ、よくぞ勝ち切ってくれました。

スタメン

新潟は前節同様に史哉と至恩がスタメンに名を連ね、鹿児島戦と同じ11人でスタートしました。
また、今回の大きなトピックは何と言っても秋山が初めてのメンバー入りを果たしたことでしょう。1つ大きなステップを踏んだということでまずはおめでとう!
しかし、もちろんこれは1つの通過点。次なる目標は当然試合に出場することになります。今シーズンのうちに達成できるか。大いに期待したいと思います。がんばれ秋山。

愛媛の方は前節から2人変更がありました。
まずは2試合欠場していた長沼が右WBとして復帰。
そして今年広島からレンタルで来ている川村がプロ2年目でデビューを果たしました。
広島ユースで彼が高校2年生の時、青森山田とのプレミアリーグのチャンピオンシップで見た時から、レフティーのゲームメーカーで非常に落ち着いたボール捌きが強く印象に残っていた選手だったので、今節は個人的に彼のこともちょっと気になってしまいました。

前半

試合の入りから非常に静かな立ち上がりとなります。
これはボールを持つ愛媛と持たせる新潟というのを両チームの選手や監督さんもコメントされていたように、予想通りの展開ということで準備できていたのでしょうし、さらに入りはどちらも慎重にということもあったので静かな立ち上がりになったのかなと思います。

3分、5分と左サイドから下川のクロスで攻め立てられますが跳ね返したり、しっかり体を付けたりして対応します。
新潟は7分、9分にそれぞれ中盤、ブロックの網で引っかけてカウンターの機会を作りますが、1つ目は新太からのパスがズレてしまい、2つ目はレオがシュートまでいきましたがGKにキャッチされました。
お互い狙いとしているであろうプレーはにわかに出始めます。

にわかに動きが出始めても試合展開の本筋は変わりません。20分頃に出ていたポゼッション率のデータはぴったり70vs30と示されていました。
新潟は10分頃と21分頃に少し前から取りに行ったところをかわされて近藤と神谷に広い中盤のスペースで受けられてしまうシーンこそありましたが、前者は遅らせた上で最後は中央で潰し、後者は舞行龍の落ち着いた対応で芽を摘みます。それ以外では無理して取りに行かずブロックを作ってスペースを消して対応できていました。
攻撃では時間が進むにつれて新潟が最終ラインで持つシーンも見られるようになりましたが、愛媛も無理して取りに来ない中、最初は繋いで行く意識もそれなりに感じて、長いボールを蹴る場合はセーフティーに蹴っている印象だったのですが、少しずつ誰かを狙った意図的な長いボール(主に対角のフィード)が特に20分前後からは増えていたように感じます。

25分には大武のフィードを至恩が受けて、カットインからシュートまで行きますがDFにあたってGKにキャッチされます。
直後の26分には再び大武のフィードから今度はレオがエリア内で受けますがDFにクリアされます。
少しビルドアップの部分では不安定なところが散見された大武でしたが、立て続けのフィードで見せ場を作り、後にそれが起点となって決勝点が生まれました。

大きなピンチが2つ。
まずは14分。
下川へ出て行った史哉の裏のスペースで開いて待っていた神谷へ川村からのスルーパスが通り、深い位置まで持っていってからのクロスを藤本に合わせられますがわずかに外れます。
もう1つは35分。
前野から下川、下川からオーバーラップした前野へ再び渡るとクロスボールにファーサイドでドフリーだった長沼にボレーで狙われますがこれも枠を外れます。これが前半最大のピンチでした。
愛媛はこうして再三左サイドから攻撃を仕掛けていました。

41分、ゲームが動きます。
カウンターのカウンターから至恩がシュートまで持ち込み、相手にブロックされたのを拾ってもう1回作り直した流れから、大武のフィードを大外で至恩が受けます。右足シザースから左に行くと見せかけて右へ出て相手を完全にかわすと右足一閃!ゴール右角ズバッ!

ほんとに恐ろしい選手です。
右足でシザースした後に左へ行くフリして左足に重心を掛けたところで長沼はやや右足に重心が乗っており、さらにそこから左足で踏み切って取りに行こうとした瞬間にはすでに至恩は右足のアウトサイドで逆へ行っています。完全に手玉に取っているわけです。
その左へ行くフリについても、右足のようにシザースするのではなく左足をボールの手前で左側へ動かしただけなのが肝なように思います。シザースはボールを跨ぐわけですからほんのわずかでも余計なラグがかかります。そのラグを削りつつ、且つシザースをするのと同じくらいのフェイントとしての効果を生み出していたのではないかと推測しました。

また大武からボールを受ける際も、サチローから大武へ下げた時に愛媛のDFが押し上げたのをしっかり見て、下がりながら外に膨らむU字を描くような動きでしっかりオフサイドラインをかいくぐっていたのも見事でした。

前半終了、1-0。
ピンチはありつつもプラン通りに進めながらしっかりリードを奪う理想的な展開に持ち込めました。

後半

後半もやっぱり試合の軸は変わりません。ゆっくりじっくりビルドアップからチャンスを狙う愛媛と、ブロックを作って守りながら虎視眈々と反転攻勢を狙う新潟。ただ後半の立ち上がりに関しては、守備への速い切り替えが機能して新潟が押し込む時間が少し続きました。
53分は新太が素晴らしい守備から右サイドを突破して、最後はレオのシュート。
55分にも新太がGKの岡本とさらに前野へと2度追いをしてプレッシャーをかけたことで、ルーズになったボールを狙っていた史哉がシュートを放ちました。
どちらも枠へは飛びませんでしたが、新太の献身的なプレーが光ります。

すると56分、愛媛は川村、藤本→山瀬、丹羽を投入する2枚替えを行います。山瀬はボランチ、丹羽はトップへそのまま入りました。
後半の頭から2枚替えを敢行し、流れを持っていかれて逆転負けを喫した前半戦の記憶が過ったのは否定できませんが、この日の新潟は崩れることなく戦ってくれました。
59分には史哉のナイスカットから新太とサチローがサポートに入って繋ぐと、サチローから前線へのボールを茂木がトラップミス。シルビからレオへのスルーパスが通りフィニッシュまで持ち込みます。DFにブロックされてしまいましたが、奪う部分も奪った後の部分も非常に落ち着いていた良いプレーでした。

64分、新潟は善朗→カウエ。膝にテーピングが巻かれていて少し足を気にしている素振りもあったので、無理をさせないということでの交代だったかと思います。
対する愛媛は66分、負傷によるアクシデントで下川→有田を投入して3人の枠を使い切ります。長沼が左WBに回り、近藤が右WB、有田を最前線にして神谷と丹羽がシャドーというポジションに替わります。
この70分あたりからしばらく自陣のエリア近辺にブロックを作って我慢を強いられる展開が続きます。しかし、吉永さんが「恐い攻撃はなかった」と仰っていましたが、確かに決定機は79分にあった近藤のシュートくらいで、前半に比べればクロスからゴール前で合わせられシーンもなくなりました。愛媛が崩し切ろうとしてくれたことがこちらとしては幸いした面もありますが、カバーし合いながらしっかり体を張って対処できていたように思います。

新潟は76分に至恩→貴章、84分にシルビ→達也さんと頼れるベテランを投入して、引いて守り切るという事ではなく、したたかにゲームのクロージングに入ります。欲を言えばもう少しマイボールでしっかり繋いでラインを上げて危なげなく進められればベストだったのでしょうけど、しっかり勝ち切ってくれましたから、素直にお見事でした。

試合終了、0-1。
遅ればせながらようやく今季初の3連勝。
しかも全て完封というのがなんとも嬉しいではないですか。

下味を活かしてさらにおいしく

大武が「もっと自分たちの時間を作りたかった」と話していて、前から守備がハマらなかったところに主な原因を見出していましたが、それも確かにそうだなと思いつつ、もっと直接的なマイボールの時の持ち方、動かし方のところでも気になったシーンがあったので挙げてみます。

図にして頂いたのは前半25分38秒〜45秒くらいのシーンです。
新潟のビルドアップで舞行龍から大武へ渡り、一旦サチローへ預けてから再びもらうと、一発のフィードでレオが抜け出しCKを獲得したという流れです。
決して悪くないと思います。裏を狙う意識をチームとして共有できていて、1本のパスから結果的にCKを取れているわけですから。ただ、サチローから折り返してもらった大武が自ら少し運んで楔のパスを入れるようなアクションがあってもよかったのかなという気がしました。
まず下がって受けたサチローに対して愛媛は田中が寄せに来ていたため、瞬間的に5-3-2のような形になっていました。さらに左サイドの状況を切り取ると、大外の至恩に長沼、トップのレオは茂木と山崎が間に置いて見ており、その最終ラインと一時的に3人になった中盤とのライン間にはシルビとゴメスが入っており4vs3のような状況ができていました。
ですから、大武が少しだけ運んでから早いパスを至恩に入れて相手の中盤が自陣ゴールに向かって走りながら守らざるを得ないうちに、ライン間のゴメスやシルビとフリックやスルーを使いながら連携して崩す形は十分作れたのではないかなと思います。

もちろん、言うは易し西川はきよしです……あ、違う、行うは難しです。
ただ、ボランチ(サチロー)が下がって相手を釣り出し、SH(至恩)が幅を取り、トップ(レオ)が深さを作り、ライン間にトップ下(シルビーニョ)だけでなくSB(ゴメス)も入れているので下味はしっかりできています。
長いボールという分かりやすいけど多少大雑把な味付けに加えて、こういった下味を活かした繊細な味付けができれば、こういう難しい試合でも2点目、3点目が取りやすくなるのかなと思います。

進化の途上

試合後のアタッキングサイドのデータでは右サイドの方がやや上回っていましたが、印象としては1試合を通じて愛媛は自分達の左サイド(新潟の右サイド)から仕掛けてくることが多かったように思います。

これは神谷が左側のシャドーを基本ポジションとしていたこともあるのかもしれません。新潟は至恩の方が相手のCB(茂木)へプレッシャーを掛ける時は割とハッキリ外側の長沼のコースを消しながら行っているように見えて、新太の方はCB(前野)へ取りに行く時、より内側を通されないことを強く意識しながら守っているように見えました。
誤差の範囲かもしれませんが、これも神谷の存在が大なり小なり影響していたように感じました。その点で言えば非常に難しいバランスを考えながら内外に対応していた新太は非常にクレバーに守っていたと思います。つい最近のレビューでも書いた気がしますが改めて新太の進化には目を見張るばかりです。

それでも、特に前半は新潟の右サイドから再三クロスを挙げられてヒヤリとさせられるシーンがあったわけですが、これは史哉と新井の守り方の間合いの違いがあるような気がします。
どちらもサイズが大きくない分、頭を使ってプレーを読んで相手の攻撃を消すようなタイプですが、新井の方がもう少し寄せる時の距離や寄せ方がタイトにできているように感じました。それによって例えば1対1の対人で押されたとしても、ゴール前にボールが供給されるのは最低限防ぐことができているように感じます。史哉の場合はまだ間合いが遠いことで相手にやらせてしまうシーンがあるような印象を持ちました。これは味方との連携の問題も含めてですが。

当然、史哉は自分だったら考えられないような努力と精神力でカムバックしてきたばかりの選手ですから、復帰して2戦目なんてまだまだ発展途上であることは間違いありません。
ただ、だから仕方ないというのではむしろ彼に失礼な気がしてしまいます。
スタメンを勝ち取った1人のフットボーラーとして、取り切る寄せや、突破されかけても最後に足を伸ばしてクロスを上げさせないといった部分はもっと求めたいと思います。
逆に言えばそれ以外の読みを活かしたカバーとかインターセプトとか、プレスに来られても慌てずに捌くところなんて、3年半も公式戦から離れていたのが信じられないくらいです。

最後に

愛媛はこの敗戦によって昇格プレーオフ進出の可能性が消滅したそうです。ちなみに新潟はこの勝利によって残留が確定しました。いよいよいろいろと今年の結果が出てくる時期になってきました。
それぞれのサポーターがそれぞれにあと何勝すればとか、あと何ポイント取ればなどと計算や皮算用をするわけですが、その点で言えば新潟はそもそも“残り全部勝ったらもしかすると何かいいことがあるかもしれない”といった状況なので、ある意味余計なことを考える必要がなく戦いやすいのかもしれません。

残り6試合、1つ1つ叩いていきましょう。

くりはら
くりはら
鳥屋野潟ほとり出身のアルビレックス新潟サポーター。海外はアーセナル推し。Jリーグ、海外、2種、3種、女子、その他、カテゴリーは問わずサッカーが好き。ラジオも好き。某坂道グループもちょっと好き。